2 十味敗毒湯がなぜニキビに効くの?
では、生理ニキビのメカニズムが分かったところで、十味敗毒湯がなぜその生理ニキビの改善に効果があるのかについて説明していきます。
2-1 十味敗毒湯は江戸時代に開発された漢方薬
2-1-1 開発者は「華岡青洲の妻」で有名な華岡青洲
亡くなった作家の有吉佐和子さんが執筆した「華岡青洲の妻」という小説はご存知でしょうか?この小説で一躍有目になったのが、江戸時代の紀州藩(和歌山県)に召し抱えられていた華岡青洲という医者です。華岡青洲は、世界で最初に全身麻酔によって乳がんの摘出手術をした、ということで医学の歴史に名前を残している人物です。
十味敗毒湯は、その華岡青洲が開発した漢方薬で、その調合法は彼の書いた「瘍科方筌(ようかほうせん)」という本に掲載され、それが一般の医師にも広がっていきました。十味敗毒湯という名前は、10種類の生薬が配合されていることを「十味」、皮膚に溜まっている化膿などの毒素を出すことを「敗毒」と行ったことからつけられました。
「瘍科方筌」に載っている十味敗毒湯の薬効としては、しゃっくり、下痢、毒キノコ中毒、急性胃炎、食中毒、熱病、おでき、痔、打撲傷、毒蛇の毒消し、ふぐの毒消し、二日酔いなど非常に幅広いものです。
2-1-2 十味敗毒湯の10種の成分って何?
10種の成分ということで「十味」なわけですが、その10種類を以下に説明します。
1 荊芥(けいがい)は、シソ科のケイガイアリタケソウのことで、熱を抑え、かゆみを抑え、化膿を防ぐ働きがあります。
2 防風(ぼうふう)は、セリ科のボウフウの根のことで、熱を下げる働きがあります。
3 川芎(せんきゅう)は、セリ科のセンキュウという植物の根で、痛みをとり、血行を促進し、男性機能を高める働きがあります。生理による、頭痛、貧血などにも効果があるといわれています。
4 毒活(どっかつ)は、ウコギ科の植物の根で、冷えた身体を温め、痛みをとり、毒を排出させる効果があります。
5 柴胡(さいこ)は、セリ科のミシマサイコの根で、熱を下げます。
6 桔梗(ききょう)は、青い花の咲くキキョウの根で、咳を鎮め、からまった痰を出す働きがあります。
7 甘草(かんぞう)は、マメ科カンゾウの根で、身体と精神の緊張を解き、菌の活動を抑える働きがあります。
8 樸樕(ぼくそく)は、ブナ科クヌギの樹皮のことで、毒を排出し、咳をし埋めます。また化膿している皮膚を改善します。
9 茯苓(ぶくりょう)は、キノコのサルノコシカケ科マツホドの菌、利尿作用があります。
10 生姜(しょうきょう)は、まさにショウガで、冷えた身体を温め、胃腸を整えます。
このような10種が定番ですが、しかし、十味敗毒湯には2つの配合表があり、1つは8番目の樸樕を配合しているもの、もう1つがその代わり桜皮という、まさにサクラの木の皮を配合しているものです。実は、この部分が1番生理ニキビにとっては肝になる話ですが、それはもう少し後で説明します。
2-2 十味敗毒湯が生理ニキビに効くメカニズムとは?
このように江戸時代から300年間処方されてきた十味敗毒湯が、なぜ今、生理ニキビに効果があるといわれているのでしょうか。それは以下のような理由からです。
2-2-1 荊芥、甘草の抗菌作用
まず1つ言えるのは、上で書いたように、荊芥には化膿を抑える働きがあり、甘草にも同様の作用があることです。この効果によって、毛穴の中にあるアクネ菌を死滅させ、化膿を抑え、ニキビを改善させます。とはいえ、これはすべてのニキビに対する話で、生理ニキビに特化したことではありません。
2-2-2 桜皮の黄体ホルモン分泌抑制作用
先に女性ホルモンには、卵胞ホルモンと黄体ホルモンがあると書きました。この2つのホルモンは、生理ではない時、あるいは健康な状態の時にはバランスがとれて、お互いの働きをけん制しあい、助け合っています。
しかし、このバランスが崩れ、たとえば卵胞ホルモの分泌が弱くなると、代わりに黄体ホルモンの分泌が強まり、結果生理ニキビができてしまうのです。
これに対し、桜皮という生薬は、抗炎症効果や、解毒効果も持っていますが、何より卵胞ホルモンの分泌を促進する働きがあります。したがって、桜皮の入っている漢方薬を飲むことで、黄体ホルモンの分泌が抑えられ、その結果皮脂腺への刺激が少なくなって、皮脂の過剰分泌がなくなり、ニキビができなくなるのです。
この効果は、長らく知られていなかったものを、最近になって志木駅前皮膚科の医師である竹村司という人と、製薬メーカーのクラシエ製薬株式会社の漢方研究所に所属する遠野弘美という人が「十味敗毒湯の臨床効果 および基礎研究報告」という研究論文によって明らかにし、一大センセーションを起こしました。
以上のようなことから、十味敗毒湯の桜皮が配合されているバージョンのものを飲用することで、生理ニキビが治せるのです。
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